白神最奥部 逍遥 ノロの沼・赤石川下二股・摩須賀岳

L荻野聡 他 会員外2名

3/4(木)晴れ

06:50八森駅~15:20二ツ森登山口

前日にタクシー会社から連絡が入り、八峰町HP記載の通行止地点まで実際には除雪されていないと言われ、タクシーをキャンセル。通行止=除雪ではないと言われればそれまでだが・・・それはないでしょう。結局、海抜10.8mの八森駅から歩き始める。板歩荷は4km弱そこからシール登高14km強。計18.3km白神岳~向白神岳、真瀬岳の眺めが良かった一方、日射が強く“低山”の林道ではシールに雪がまとわりつき、足かせになった。スキー板の裏の雪を払おうとストックで突っついていたら、ストックが折れてしまった。よりにもよってこの山行で、、、4シーズン目だけれど、使用頻度を考えれば仕方がないか。ダクトテープで繋げ、添え木とテーピングで応急処置。二ツ森登山口の東屋はしっかりと板が打ち付けてあり中には入れなかった。

 

3/5(金)高曇り

06:15二ツ森登山口~11:20 810mコル +ノロの沼往復(1.5時間)

幕営地から北のコルへの降り・登り返しは細尾根&急登で少し手間取る。Co930mで真瀬岳方面への尾根と分かれ、摩須賀岳方面へ。尾根は広く、視界も利いたため順調に進み、滝ヶ嵓ノボッチ(p938m)に至る。山頂部は真っ平らなサッカーコート大の広さで、ダケカンバが疎らに生えている。そこからは2回シールを外して滑って幕営予定地の810mコルへ。半年前に乗越したコルに再び帰って来た。稜線上の西側は雪がほぼ溶けて、チシマザサが出ている。しっかりと彫り込みテントを張って、さらにタープを掛ける。

ひと息ついても時間が合ったので、ノロの沼を往復。夏は見つけるのに苦労したが、冬期に上からアクセスするのは容易だ。一部水が出ていたが、概ね雪の下。夏とは打って変わって周囲の様子がよく見えて楽しい。ブナ林にぽっかりと穴が開いたこの場所は、白神に浸る格好のポイントだろう。

3/6(土)雨→曇りのち晴れ

12:40 810mコル~コケの沢Co710m往復

前日20時からポツポツと雨が降り始め、夜中は降ったり止んだり。あさ4時も本降りで停滞を決める。お昼前から日が差し始めたので、気分転換に周辺の散策へ。夏に滝川への下降に利用し、記録・名前が無かったので『岳人』誌上で「コケの沢」と名付けた、810mコル~滝川の沢筋を滑る。150mほど降ると、滝があるポイントの上。水流の音が聞こえ、両脇も急斜面になったので止め。帰りは尾根に上がって戻った。

3/7(日)曇り→快晴無風

06:40 810mコル~11:10赤石川下二股~16:00摩須賀岳~17:00 810mコル

前日にノロの沼へ行っておいたため、高度を下げずトラバース開始。ノロの沼経由ならシール歩行のつもりだったが、直接赤石川に行くのでシールはつけない。ノロの沢右股は上部でかなり枝分かれしていて、沢筋のギャップをいくつも横断する。ノロの沢水系を過ぎても沢の横断ばかりで気を遣う。高度を下げずに済んだ分、傾斜がきつくなってしまった。前日の雨&気温低下の影響で表面は完全に氷化。山全体がレインクラストでもはや氷山と言えそうなくらいだ。

09:40クラの沢出合。やっと赤石川の河床近くまで来られた。クラの沢は幅2mほど口を開けていて、まあまあ水流もある。飛び石伝いに渡って、対岸の雪壁を登ろうとするが、雪が脆くて1.5mが這い上がれない。不安定な石の上で四苦八苦してなんとか雪上に這い上がった。ここから赤石川下二股までは、赤石川左岸をのんびり滑る予定だったが、そんなスペースは無い。川は夏同様の川幅で逆巻きながら流れている。仕方がないのでシールを貼って、上り下りを繰り返し、最後は岸壁の斜面30mを緊張のトラバースの末、ようやく下二股着。

今山行の目的地である。(摩須賀岳はあくまで帰り道。)2年前の夏にこの下二股で幕営したときから、いつか冬に来たいと胸に秘めていた。この感動を他者に伝えるのは困難かもしれない。(書き手の怠慢に過ぎない)なぜピークではなく、こんな谷底なのか。きっと自分自身でもきちんと理解できていないのだろう。ただこの場所に到達できたことが無上に嬉しかったことだけは確かだ。

下二股を堪能したあと、摩須賀岳へのダイレクト尾根に乗る。しばらくはシールで登れたが、次第に急登になり、ワカンに履き替える。Co740mには岩峰があって、その手前には雪がない。若干の藪漕ぎをして、シュルンド脇の雪に足場を作って左から超えた。あとは標高差250mを雪庇に気をつけながら登るだけ。ワカンで登る=板は歩荷、で疲れるが、ウイニングロードを一歩ずつ確実に踏みしめる。16:00快晴無風の摩須賀岳に登頂。岩木山が鋭く天を突いている。白神岳~向白神岳は夕日をバックに神々しい。たっぷり30分。遠回りの末に登頂した喜びと、大展望を噛みしめた。810mコルまでは、特筆すべきことはない単調な降り。

3/8 (月) 曇り

07:20 810mコル~13:20二ツ森登山口~16:00除雪末端

既に山行の目的は十二分に達成でき大満足だが、下山するにはまだあと25km近く移動しなければならない。のんびりとした出発も、気温は低く表層は凍ってシールが利きづらい。尾根は明瞭で、針路に迷うことはなく、相応の時間を掛けて林道終点(二ツ森登山口)まで戻る。下界の、荷物を置かせてもらっている宿に電話をするも、生憎本日は満室。この日中の下山は諦める。

林道18kmは降りとは言えあまりに長い。よく登ったものだと、自分たちのことながら感心する。先日の雨で相当溶けたのだろう。下部は落石やら落ち葉やらが散乱していた。入山時より1kmほど除雪が進んでいて、その最終地点に幕営。

 

3/9(火) 晴れ

06:10除雪末端~07:10八森駅 下山

あさ8時発の五能線下りに間に合うように行動開始。食糧などが減ったとは言え板を担ぐと重い。同行者ふたりは靴ズレがひどく、もはや両脚を引きずっている様だ。それでもあと数km。みな顔は晴れやかだ。

道端にはフキノトウが顔を出していた。春の足音がもうそこまで来ている。「春」の訪れが早く「冬山」ではなかったことはある意味では残念で、移動高に恵まれたことも踏まえればある意味ではありがたいことだった。4km歩いて八森駅着。

全行程58.8km 累積高低差3585m 5泊6日に及んだ山行に幕を下ろした。

白神概念図 冬