2013年5月飯豊山

飯豊山スキー登山

2013・05・04

L大竹 深野 鏡 西田

天気 曇り時々晴れ

西川山岳会の記録をHPで読んで以来、数年前から望んでいたルートだった。総登高高度が2500m近くあり、自分の年齢では今回が最初で最後のルートかもしれないと思うと、せっかくなら天気に恵まれた日に入りたく、そのタイミングが合わず伸びに伸びて今回の行動になった。

1飯豊山

会津の人間の多くは、意識するとしないとにかかわらず盆地から山を見て自分の現在地と方向を知る。指標とする山は、磐梯、背炙り、博士、明神、そして飯豊が主な山になる。

小学校3,4年の頃だったか叔父が飯豊に登る準備をしていた。部屋にあったキスリングを持とうとしたらびくともせず、下山後しばらくして8ミリでの山行の映写会が敷布のようなものをスクリーンにして行われた。その映写の一部に藪漕ぎのような状態の中、ナタをふるいながら登っている様子を見て「飯豊は大人の登る山」とインプットされ、以来盆地から遠く望み真っ白に屹立している屏風の飯豊には、距離を置いた畏敬の念を抱いてきた。

その遠い山、飯豊を身近にしてくれたのが鏡さんで、誘いを受け昨年川入から日帰りで往復し、初めて山頂に立った。

そのせいもあって、いっそう今回のルートへのモチベーションも高まり、今回呼びかけてみると深野、鏡、西田という蒼々たる面々が手を挙げ、安心感と同時に腰が引けたのも事実である。

2登り

前日3日、除雪済みの林道に入り大日杉小屋に泊。大型連休にもかかわらず一般道路は思ったより混んではいなかった。小屋も独り占めだった。

朝4時誰かの目覚ましが全員を起こし、各自朝食を摂り登山届けを投函して5時40分行動開始。スキーを履いてザンゲ坂の急登に早めの汗を流す。登りきった尾根上は雪がなくスキーをザックに括り夏道を辿ったが、長之助清水を過ぎた辺りから本格的なスキー登山となった。

1409のだまし地蔵までは息が上がるが、そこから地蔵山頂までは一投足。山頂まで2時間半強。

前方には遥か遠く、飯豊本山が山頂をガスで見え隠れさせながらこちらを威圧している。これからあそこまで歩を進めるのは、到底無理と思わせるような景観である。

サイは投げるもの、と吹っ切るように山頂から地蔵沢左俣を滑り降りる。山頂からの初めは少々藪っぽいが、すぐに先の方に沢の白い切り開きが見えた。

沢は想像以上に広く、斜度も適度で周りはブナ森の秘境の景観をなしている。前日までのものと思われる湿雪でかなり重めだが一気に大又沢に降りる。

途中、鏡さんがこけた!スキーが湿雪に刺さってこけたようだが、理由の如何に関わらず、彼がこける姿なぞ滅多に見られるものではない。申し訳ないけどちょっと嬉しくなって写真を撮らせてもらった。スキーでは 神の鏡も 屈むもの

一気に降りた後の大又沢は、十分な量の雪で埋まっていた。側壁の底雪崩の痕跡とデブリが、春の到来を告げている。


おむろの沢出合いで西田君がとうとう半袖になった。沢中は風もなく日も射して、まさに春スキー。シールもかなり濡れている。

おむろの沢は、出合いは狭いものの、次第に視界いっぱいに真っ白な雪壁のせり上がりと、門内沢を思わせる広い沢底が広がり、雄大な春の飯豊の懐中漫歩を楽しむ。

c1250付近の左岸の開かれた沢から東尾根に上がる予定でいたが、上部がかなりせり上がって見える。ひとつ手前の小さな沢からの登高のほうが体力的ロスが少ないのではないか、ということで衆議一決し、転進。途中右手の支稜に上がり東尾根に乗った。斜度や登り易さから見ても、このルート選択は正解だったように思う。

後は、ひたすら山頂を目指して高度差400m強を忍の一字で登るのみ。

C1650付近で一本とった後再び歩き出したが、このあたりから乳酸が脚だけでなく全身溜まり始めた。それでも後ろにいた深野さんの吐く荒い息が「お前だけが辛いんじゃないヨ」と辛うじて元気づけてくれる。

C1800あたりからガスと強風に悩まされ右俣の沢に流されないようにと、雪で頭だけ出しているハイマツ帯の上を歩いたが、突風にも踏ん張りは効くし、高度を上げるに従って悩まされたシールのボッコも枝葉にこすり取られ、とても助かった。

時折防風態勢をとりながらもなんとか小屋に飛び込んだのは、12:10頃。まだ半分以上雪に埋もれた小屋は無人。いつもながら小屋のありがたさを実感するひとときだった。

それにしても本日の飯豊山の天気予報は、晴れだったはずなんだけど…。

3スキー滑降

Yのスキーは人種のルツボ的多様性がある。今回のメンバーには特にそれが顕著でありこれから目指す左俣の滑降で面白いほど実感することができた。

小屋を出て強風とガスの中左俣を狙うが、シニアグラスを忘れた上、僕の画面の小さいGPSでは十分に確認できない。深野さんの適切な助言を得てなんとか降り口付近へ立つことはできたものの、ここまでのトラバースにはアイスバーンもあり、その上に新雪も被さっている。加えて下部が十分に見えなかったりで、若手二人はともかく僕と深野さんのシニア組は、大なり小なりすんなりドロップインすることには、不安を抱えていた。

そこへ、じっと下の方を見ていた西田君がやおら滑り降りた。それもかなりのスピードで直線的に。当寸大の彼があっという間にゴマ粒となってはるか下で止まった。

そのあとを追うかのように鏡さんが一定のRを描きながら華麗に急斜面を滑り降りる。

こうなると我々も行くほかはない。思い切りよくトップを下に向けると、くるぶし程の厚さに積もっている雪は重いものの雪崩る心配もなさそうで、むしろ斜度に助けられ気持ちよく滑ることができる。

こうなると現金なもので「高度差1000m以上の斜面だもの、楽しまなきゃ」とばかり4人思い思いのシュプールを描き始める。

会の中では、ばりばり若手の西田君は相変わらずあくまでも直線的に、手馴れた(足馴れた)感じでスピード感を出して滑る。「昔はオレもあんなふうに飛ばしていたなあ」と思うが今は昔。

鏡さんは、本当に安定した力強い大回りを見せる。自分もあのように滑りたいと思わせる滑りで、見ていて惚れ惚れする。安定感がある。彼がこの山行中に「今が一番上手い時と思っている」と言ったのは率直な実感だろう。好きな滑りだ。

深野さんは深野さんでジャンプターン。それもトップもテールも見事にパッと浮かしたエアターンで方向を変える。「出だしの急斜面はビビった」と言っていたが、下るにつれてのかなりの腐れ雪。その中を、スキーをフワッと浮かせてヒョイッとターン。あれは当会では誰も真似ができないだろう。斜面を選ばず、藪中だろうが細い尾根筋だろうがいかなる状況下でも合わせる滑りは、まさに山屋の職人芸である。

褒め過ぎの評論家じみた話になってしまったが、雪に埋もれたスケールの大きな谷底で、そんな思いを感じながら自分も滑りを満喫し、3人の滑りを上から下からと楽しく眺めていた。

それにしてもやはり飯豊である。石転び沢のような荒々しさは無いが、400mを越す側壁に囲まれた広い沢底に立っていると、数年越しの思いが実現した充実感がじんわりとこみ上げてくる。

ただ、地蔵沢の登り返しは全身疲労オブラートに包まれた状態で、特に地蔵山頂まであと4~50m辺りでは登る気力も失せ始め、トップを行く西田君に「山頂外して下山道にトラバースできない?」と何度も聞いたほどである。結果的になんとか山頂にたどり着いたものの、彼も「相当きつかった」と後述していた。

地蔵岳からの滑りは、なんといっても深野さんの独断場。細い尾根、濃い藪斜面を生き生きと身を躍らせて突っ込んでいく。普通ならスキーを脱ぐ場面の半分崩れかかった雪の細尾根もどんどん降りていく。スイッチが入ってしまった・・・。

3人で半ば呆れ半ば感心しながらなんとか後ろを追う。

スキーを背負って夏道を下り、再びザンゲでスキーを履き、半分杉の落ち葉に覆われた斜面を一気に小屋へ滑り降り、着いたのは16:40。計画書より若干10分遅れの、ほぼドンピシャ山行だった。

4車中

まあ、かまびすしい時もあるけど、僕は深野さんの話を聞くのが好きだ。すべてに行動し、調べ、学びの裏打ちがあるから。彼の持論も独特なものがあって面白い。観点や捉えどころ独自性があって、考えさせられることも多々ある。著書にもそれが深野ワールドとなって表れる。

今回の行き帰りの車中でも面白い話を聞くことができた。「検診を受けると長生きできない」はなかなか興味深いものがあった(詳しくはfukano@com?)

「山でお荷物にはなるな(なりたくない)」。深野さん「自分はその山行の中で、安易に他人の計画に乗って後ろをついて歩くだけなら行かない。その山行の中で自分が少しでもパーティに貢献できる山行をしたい」。出来るかどうかは別として、そうありたいと思う(これも詳しくはfukano@com)。

近著の「銀嶺に向かって歌え」の小川登喜男の話も面白かった(詳しくは購買)。

帰りの車中からは、朝日をはじめ山形を囲む山々がまだ白く光っている。飯豊だけでなく周辺の山も5月末までは楽しめそうだ。

5再訪?

 今冬シーズンのスキー山行は、雪質への不満は若干あったものの、この飯豊で終盤を迎えることができほぼ満足。叔父にも胸を張って報告できる。

それでも飯豊は、偉大且つ雄大で深かった。往路で地蔵岳山頂から見る飯豊は、「来るな」と威圧していた。でも山頂からの左俣の滑降を果たした復路、地蔵から振り返った飯豊は「今度は右俣滑るのか?」と聞いているようだった。応えようか?・・。

 

コースタイム(12時間)

小屋発5:40~地蔵岳8:30~地蔵沢~大又沢8:40~おむろの沢出合い8:50~東尾根上10:10~C1600へ10:30~山頂小屋12:15

~小屋発12:45~左俣滑降=おむろの沢出合い14:00~地蔵岳15:30~登山口16:40