【山行報告】4/1-2 月山から葉山へ
月山と葉山。山形県の中央部に鎮座する二つの独立峰。それらを結ぼうなんて考えたことはなかった。11月になると雪の便りを心待ちし、6月になってしぶしぶ板を納める。そんな始まりと終わりの山 月山と、ディープパウダーを目指して厳冬期にこそ入る葉山。私の中では近くて遠い対照的な存在だった。
11月、初滑りに向かった月山の帰り道に大竹さんからこの構想を聞かされた。月山と葉山の間の地形など頭に入っていなかったが、山形道から見る両者がどちらも立派な独立峰であることだけは知っていた。大竹さん宅に帰り着いて地図を見ながら具体的なルートを教えてもらった。念仏ヶ原までは肘折ルート、そこから御城森まで尾根上をいき、銅山川に一度降る。鉱山跡の集落に掛かる橋を渡り、雪に閉ざされた国道458号線まで廃道を行く。寒河江と肘折を結ぶその国道の最高点・十部一峠から葉山山頂まではきれいに尾根が伸びている。
こうして地形図を丹念に見てみると案外できそうな気がする。「できるはずもない」=その考えの一片すらない時は遠く断絶していたかに思えた2山が、「できるかもしれない」=実現するにはどうすれば良いか考えると、自ずと歩くべきルートが浮かび上がってくる。コペルニクス的転回という表現が正しいかは自信がないけれど、<対象が認識にしたがった>のである。大竹さんにすっかり焚きつけられてしまい「いつかやります」と口が滑ってしまった。
しかし、「いつか」は永遠にいつかのまま。いつか読もうと思って積まれた本、いつか見ようと録画した番組。大抵そんな日は来ない。真に希求するものは先送りにしてはいけない。決まり文句の神様に十分な貢ぎ物を捧げてきたのでここであえて使えば「いまでしょ」である。
そういうわけで、大竹さんの構想を足跡として地図に刻むべく、新年度初日のこの日、雲一つない快晴の下に姥沢を発った。牛首の先までは大竹さんと行動を共にし、明日“葉山での”再会を約束してひとり旅を始める。単独で山に入ることは多々あれど、途中まで一緒に来て「では明日!!」というの初めてだ。普段は感じない心細さがそこにはある。
快調に月山山頂。葉山と対面して思った。「遠い・・」しかしもはや引き返せない。家に帰るには、つまりは大竹さんの車に乗るには、明日あの山に居なければならないのだ。山頂から葉山に向かって大斜面を滑る。まだザラメにはほど遠くガリガリで楽しくはない。千本桜の下はグライドクラックが入り、一度スキーを脱ぐが雪面は硬く怖い。これをクリアするとようやく楽しい雪質になるが、立谷沢のボトムにつく頃にはストップ雪に早変わり。沢はところどころ口を開けてはいるものの、滑るのには支障なし。念仏ヶ原へ続く沢筋を登り返すと、いよいよ月山のテリトリーから離れた気分になる。
肘折へのツアールートから外れ、幕営予定地・御城森に続く尾根に乗る。尾根上はブナの疎林で月山の眺望がある。30m程度のアップダウンが続き、徐々に高度を落として御城森。山頂周辺を散策して、樹林が薄く月山を眺められるポイントを探して幕営。枝を集めたら準備完了。焚き火にあたり、差し入れの梅酒をいただきながら、月山に沈む夕日を眺める。人里遠く“ぐらんぴんぐ”を楽しんだ。
翌日も快晴。月山が薄橙に染め上げられるのを拝んで出発。銅山川まではやや地形が複雑だ。慎重に尾根を選んで、鉱山集落跡の廃道に出る。銅山川は雪解け水が轟々と流れ、まだ日の差し込まない谷底を支配している。欄干の倍の積雪が残る橋を渡る。
最盛期には3000人以上が周辺で生活していたという永山鉱山がここにはあった。往時の息づかい・・をこんな谷底で感じたら薄気味悪いけれど、銅山川によって地形的には分断された月山と葉山を、まさにこの橋によってつなげることができると思うと、先人ありがたし。
さて銅山川からR458までは廃道になった林道で、計画ではサクッと登れるハズだった。しかしこれが大誤算。デブリ、土砂崩れ、雪切れ、崩落・・と次々新手が現れる。難しくも危なくもないが“やっかい”だ。我慢の限界に達し、左手の尾根に登ってみると景色は一変、明るく気持ちの良い散歩コースを歩けばすぐにR458に出た。十部一峠よりは少し北側だが、鳥海山が真っ直ぐに臨め、縦走完遂への最後の気力をチャージした。
あとは葉山までひたすらに尾根を登る。登り切りたくもあり登り切りたくもなし。途中、迎えサポート隊とも交信できて元気が出る。ラスト500mはだだっ広い平らな雪原を行く。正面には葉山、振り返れば昨日超えてきた月山。左手には鳥海山。縦走のラストを踏みしめて歩くが“ウイニングラン”には長すぎた。最後はへばって葉山着。
しばらく休むと迎えサポート隊がやってきた。25時間ぶりに大竹さんと再会。思わず「ながかったぁ」と本音がポロリ。けれど充実したひとり旅だった。お迎えありがとうございます。
葉山では西川山岳会の一団に邂逅した。月山・葉山・朝日エリアに知悉している彼らをして「まだやれていない」ルート。これもまた落ち穂拾い。だとしても落ち穂を見つけ、それを拾い上げることも山のチカラ・山の楽しみである。
地形の弱点、人の営みの跡。それらをうまく紡いではじめて月山と葉山をつなげることができた。この記録を、構想を温め続けた大竹さんの慧眼に捧げます。